2025/11/04 解決事例
コンサル契約のキャンセル料をめぐる交渉
企業経営において、外部のコンサルティングサービスを利用する機会は少なくありません。特に「コスト削減」や「制度の適正化」をうたうサービスは魅力的に映ります。しかし、契約内容を十分に確認しないまま署名すると、思わぬトラブルに発展することがあります。今回は、ある法人クライエントから寄せられた「キャンセル料」をめぐるご相談を紹介します。
相談の経緯
クライエント企業は、某地方都市に拠点を置くコンサルティング会社から「経営コスト適正化」をテーマとするサービスの提案を受けました。申込書には「キャンセルの場合は50万円のキャンセル料」との条項が記載されていました。 ところが、契約後に内容を精査すると、提案の実効性やリスクが不透明であることが判明。クライエントは契約を取り消したいと考えましたが、相手方は「キャンセル料を支払う義務がある」と強く主張してきました。
法的な論点
この事案のポイントは次の通りです。
• 消費者保護法制の適用外
契約当事者が法人であるため、消費者契約法や特定商取引法の保護は受けられません。法人間契約として、民法の一般原則に基づいて判断する必要があります。
• キャンセル料条項の性質
「キャンセル料」は実質的に「損害賠償の予定」(民法420条)と評価されます。つまり、相手方が被るであろう損害をあらかじめ金額で定めたものです。
• 合理性の判断
実際に相手方が準備に要した費用や逸失利益と比べて、50万円が合理的かどうかが問題となります。もし実際の損害が軽微であるにもかかわらず高額なキャンセル料を請求するなら、公序良俗(民法90条)に反し無効とされる可能性があります。
裁判例の傾向
研修契約やセミナー契約など、類似の事案では「実費や合理的な逸失利益を超えるキャンセル料は無効」と判断された例があります。例えば、東京地裁の判決では、研修契約のキャンセル料が過大であるとして一部無効とされたケースがありました。 このように、契約自由の原則があるとはいえ、社会通念上著しく不合理な条項は裁判所によって制限される傾向にあります。
本件の解決
本件では、契約書の文言や契約成立のタイミング、相手方の準備状況を精査しました。その結果、相手方が実際に被った損害はごく限定的であると判断できました。交渉の場では、判例の傾向や民法上の規定を示しつつ、「50万円全額の支払いは不合理である」と主張しました。 最終的に、相手方も強硬な請求を続けることは難しいと判断し、キャンセル料の請求は取り下げられました。クライエントは不要な支出を回避し、経営資源を本来の事業に集中させることができました。
まとめと教訓
この事例から学べることは次の通りです。
• 法人契約であっても、過大なキャンセル料条項は無効となる可能性がある
• 契約書に署名する前に、条項の合理性を必ず確認することが重要
• トラブルが生じた場合でも、法的根拠を踏まえて冷静に交渉すれば解決の余地はある
コンサル契約のように専門性をうたうサービスは魅力的に見えますが、契約内容を精査しないまま署名すると、思わぬリスクを抱えることになります。契約は「紙一枚」ですが、その背後には侮れない法的効果が潜んでいることを忘れてはなりません。