コラム

2025/12/15 コラム

「裁判で勝っても、会社が負ける」——「正しさ」だけでは不十分だと考える理由

1.「とにかく相手を黙らせてくれ」という依頼の危うさ

「先生、理屈はどうでもいいから、とにかくあの社員を辞めさせてくれ」
「妻(夫)の要求を、法的に封じ込めてほしい」
経営者の方から、こうした切実なご相談を受けることがよくあります。お気持ちは痛いほど分かります。不当な要求や、経営を脅かすトラブルに対しては、断固として戦う。これは弁護士として当然の職務であり、私はそのための「刀」を常に磨いています。企業防衛等の現場で、経営者とともに闘うことは私の原点でもあります。
しかし、あえて申し上げます。
「法的な論理(ロジック)」だけで相手を叩き潰しても、本当の問題は解決しないことが多すぎるのです。

2.「論理」と「感情」は対立しない

例えば、ある労務トラブル。会社側の就業規則や契約書は完璧で、法的には100%会社が勝てるとします。
裁判で勝訴判決を取り、相手を追い出したとしましょう。これで解決でしょうか?
その過程で、「会社は社員を切り捨てる冷徹な場所だ」という空気が社内に蔓延すれば、他の優秀な人材が離反します(人的資本の毀損)。あるいは、負けた元社員がその恨みをネット上で拡散し続ければ、レピュテーションリスクは残り続けます。
これは家庭の問題も同じです。離婚裁判で完全勝利し、財産を守ったとしても、親権を巡る泥沼の争いで子どもの心が壊れてしまえば、それは「親として、人としての敗北」ではないでしょうか。

3.「正しさ(Logic)」と「思い(Emotion)」の両輪を回す

私が目指すのは、「法的な正しさ」と「人の思い」の統合です。

  • 厳しい「正しさ」:
    組織として守るべきルール(ガバナンス)、越えてはならない一線(コンプライアンス)。これについては、経営者ご自身に対しても厳しく指摘します。なあなあで済ませることは、組織の死を意味するからです。
  •  深い「思い」への洞察:
    なぜそのトラブルが起きたのか? そこには、疎外感を感じた社員の叫びや、愛情の欠乏を感じた家族の悲鳴がないか。対話を通じて、当事者の感情を解きほぐします。

「厳しいことを言うが、ちゃんと話も聴く」
「戦う準備はあるが、対話での解決を諦めない」
この一見矛盾する態度こそが、こじれた糸を解く唯一の鍵です。
私は、経営環境のみならず犯罪の被害者加害者対話や学校でのメディエーション等の実践を通じ、「人は、自分の痛みを理解されたとき、初めて剣を収める」という真理を何度も見てきました。

4.経営者の「公」と「私」を背負う伴走者として

経営者は孤独です。会社の数字・組織(公)と、家族の悩み(私)の両方を、一人で背負わなければなりません。
だからこそ、弁護士もまた、「会社の顧問・代理人」であると同時に、「経営者の人生の伴走者」であるべきだと私は考えます。

  • 事業承継を見据えた、家族関係の維持・修復。
  • 不祥事をきっかけに、風通しの良い組織風土への改革。
  • 「人的資本経営」を実現するための、対話型ガバナンスの構築。

これらはすべて、法律の知識だけでは成し得ません。
もしあなたが、今のトラブルを単なる「処理」で終わらせず、会社と家族をより良くするための「転換点」にしたいと願うなら。
一度、その「論理」と「感情」の狭間にある悩みを、私にぶつけてみてください。

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